Home Sweet Home
4
金色に染まった街をゆっくりと歩く。暮れていく空はひどく郷愁をそそり、高耶は手を繋いだ先の少女をそっと振り返った。
(ずっと家に帰りたかったんだな……)
その家がなくなっていて、見知らぬ家族が幸せそうに微笑みあっているのを見つけて。
高耶にも、覚えがある。
(おふくろの再婚先で、見た光景――)
高耶はかるく首を振った。
《お兄ちゃん?》
少女――聡子という名前だそうだ――は、あの頃の美弥くらいの年齢だった。交通事故だったらしく、その瞬間の形状を留めていた姿は痛々しいと言うのも憚られる姿だったが、高耶と手を繋いで歩き出してからは生きていたときの愛らしい様子が戻っていた。
「なんでもない。こっちでいいんだよな?」
《うん》
パパじゃない、と泣き出す少女を落ち着かせて、なんとか話ができるようになるまでしばしの時間を要したが、その後は高耶に随分と懐いてくれたようだった。
《でも、もうおうちなくなってたから……パパを待ってないと、いけなかったのに》
「そうか」
とりあえず、以前少女の家があったという場所に向かって歩いている。それがわかれば、少女の『パパ』を捜すのも不可能ではないだろう。
「……ここか?」
高耶は目を瞬いた。分譲中の一戸建てが並ぶ見覚えのある光景に、見慣れた背中を見つける。内覧会の、あの区画だ。
《ここにあったはずなのに、おうち、みんななくなっちゃったの……》
哀しげに項垂れる少女の肩をやさしく叩いて、高耶は直江に声をかけた。
「高耶さん!」
直江の視線は、少女と繋がれた手に注がれていた。
(……狭量なヤツ……)
が、それを微笑ましく思ってしまうあたり、直江に毒されているのかも知れない。高耶が苦笑まじりにバカ、と小さく呟くと、直江は困ったように眉を下げた。
直江が内覧会の担当者から聞き出せた話は殆どなかった。
「が、引き起こしたのが何者かは判明しました」
直江の言葉に身を震わせたのは、家の前の墓地にいた霊だった。
「以前ここにいたお嬢さんの帰る場所が、なくなってしまうから――だそうです」
高耶は頷いた。
「直接の子孫だったんだな。曾孫か玄孫か……そのくらいか?」
霊のほうは判然としない様子だったが、肯定するように揺れた。
「この子は、オレたちがちゃんと家に送り届ける」
そう告げると、安堵したのかすぐに霊は気配を薄れさせた。
「高耶さん」
「……聡子、オレたちがパパを捜すまで、我慢できるか」
《うん》
「ちょっと時間がかかるかも知れないが、必ず見つける」
《ありがとう、お兄ちゃん》
聡子が微笑む。柔らかな笑顔はあどけなかった。
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一旦帰途に着き、改めて少女の父親を捜すことに決めたが、直江は異を唱えることはなかった。
「祓う必要はないだろう、あの霊もこの子も」
少女は、帰り道で直江が買い求めた市松人形に移して休ませた。後部座席においたが、問題はないようだ。霊のほうも当分おかしなことはしないだろう。
「これからあの場所に住むのなら、あの地の守護がいたほうがいいだろう」
直江は苦笑した。
「無理に理由をつけなくてもいいですよ。あの子をお父さんに会わせてあげたくなったんでしょう?理由はそれで十分ですから」
見透かされている。少女と手を繋いでいただけで嫉妬していたくせに、と思いつつ高耶は視線を泳がせたが、直江はそんな高耶の髪に手を伸ばして子供にするように撫でてきた。
だが、子ども扱いされるのも嫌ではなかった。
「……あーあ……オレ年取ったのかな……」
「え?」
「なんでもない」
高耶は喉の奥で笑った。
「帰ったら、夕飯だな」
「食べて帰りますか?」
「……まだ時間あるだろ?好きなもの、作ってやるから」
高耶が言うと、直江は嬉しそうに微笑んだ。
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