寝過ごしたのは




「にいさん、もう起きないと」
 ロロの柔らかな声は耳に心地いい。
「遅れるよ?」
 ルルーシュは目を開けないまま、手を空に彷徨わせた。指先があたたかなものに触れる。夢うつつの中でもすぐにそれとわかる。ロロの頬だ。
「もう7時半だよ。45分には出るんじゃなかったの?」
「……」
 ルルーシュはシーツを体に巻きつけて丸まった。
「兄さん、出かけないならいいけど……リヴァルさんには僕から電話しておこうか」
「……リヴァル?」
 ルルーシュははっとして起き上がった。
「――い、今何時だ!」
 ルルーシュが慌てて服を着るのを、ロロは眉を下げて見ている。
「兄さん、きっともう間に合わないよ」
「ロロ」
 ルルーシュはロロにちょっと困ったような顔を向けた。
「送ってくれないか?」
 ロロはむうと唇を尖らせたが、結局頷いてくれた。



「せっかくの休日なのに、出かけるなんて」
 家でごろごろしていたかった、と言う顔をする弟にルルーシュは苦笑した。
「たまにはいいだろ、皆で出かけるのも」
「たまにじゃないよ」
 ロロの言いたいことも分かる。何せ学園の女王陛下、いや皇帝であるミレイ会長の号令以下、毎回毎回生徒会のメンバーは東奔西走させられている。
「だが今回はイベントじゃなくて本物の、ただの遊びだ」
「遊園地なんてもうこりごりだよ……」
 先日、遊園地でテロに巻き込まれ、ロロを庇ったルルーシュが怪我を負った。
 ロロがそれでどれだけ心を痛めたか知っているだけに、ルルーシュは迂闊なことは言えなかった。
(まあ、会長のことだから、これで遊園地のことを『楽しい記憶』に上書きするようにという気遣いなんだろうが……)
 だが繊細すぎるほどの弟には、却ってよくなかったのだろうか、とルルーシュはロロの顔を見た。
 サイドカーに兄を乗せているからだろう、ロロの顔は真剣そのもので、可愛いばかりと思っていたルルーシュは思わず目を瞠った。
「――間に合うかな」
「乗り気じゃないからって、遅れたら大変だぞ」
「もう、寝坊したのは兄さんじゃないか」
 睨まれたが、兄に向けてくる眼差しに負の感情など入る余地はなく。
「たしかに寝坊はしたが」
 ルルーシュが言葉を切ると、ロロは首を傾げた。
「物事には原因と結果がある。寝坊は、結果だ」
「なにソレ」
 きょとんとするロロに、ルルーシュは嫣然と微笑みかけた。
「俺が起きられなかった原因は、なんだったかな?」
「!」
 ぼっと赤くなったロロのハンドルさばきが揺れる。
「ロロ、前!」
「も、もう!危ないよ!」
「すまない、二人の責任だな」
「だからっ……!」
 ロロの白い頬はもう真っ赤だった。
 ルルーシュは声をたてて笑った。






 Top Novel


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送